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成人病(生活習慣病)Q&A
Q:
術前心電図でブルガダ症候群の疑いとレポートされましたが、手術に際して注意することはありますか?
A:
A:
   ブルガダ症候群は、心電図に特徴的なST部分の上昇を認め心室細動などにより突然死をおこす疾患群です。患者さんの約90%は男性です。日本人を含むアジア人に多く、約20%に心筋Naチャンネル遺伝子であるSCN5Aの異常を認め、イオンチャネル病に分類されています。本邦においては健診受診者の0.2~1.0%程度にブルガダ様心電図が発見されると報告されています。
   最近の心電計の自動解析にはブルガダ症候群の診断プログラムが導入されていることもあり、術前検査でこの診断名を目にする機会が増えてきたかもしれません。突然死のリスクが高い狭義のブルガダ症候群は、1)多形性心室頻拍・心室細動が記録されている, 2)45才以下の突然死の家族歴がある,3)典型的(type 1)心電図を有する家族の存在,4)多形性心室頻拍・心室細動が電気生理検査により誘発される,5)失神や夜間の瀕死期呼吸を認める,のうち一つ以上を満足するものと定義されています。術前検査でブルガダ症候群が疑われたら、まずは問診で高リスク群の可能性があるかどうかを判断し、失神などの既往・家族歴がある場合には循環器内科医の協力の下に手術を計画するのが良いと思われます。
   術前に電気生理学的検査(EPS)を行うかどうかについては明らかな指針はありません。一般にEPSが勧められるのは、1) 典型的なブルガダ型心電図を示す, 2) 失神発作・目眩など失神を疑わせる症状がある, 3) 突然死や失神発作の家族歴がある場合とされています。EPS陽性例で突然死のリスクは10%/ 年、EPS陰性例で0.5%/年とされており、周術期のリスク階層化に役立つ可能性あるかもしれません。
   ブルガダ症候群の致死的不整脈は夜間に多く、副交感神経の関与が指摘されています。一般に術中~後には交感神経系が亢進しますが、ブルガダ症候群の心電図所見は過換気や運動負荷を行った後の急激な交感神経の減弱でも増強し致死的不整脈の誘因となる可能性もあるため、周術期には特に注意が必要です。
   最近、術後の鎮静に使用されることの多い Dexmedetomidine は交感神経を抑制し副交感神経優位とするため使用しない方が良いとする意見があります。Propofol, Thiopental, Midazolam, Fentanylは安全に使用できるとする報告の方が多いようです。心筋Naチャンネルは温度依存性あり、発熱によりブルガダ型心電図の顕在化や心室細動の原因となったとする症例報告もあります。
   ブルガダ症候群に限らず遺伝性不整脈疾患による致死的不整脈を完全に予防できる方法はありません。発生してしまった事態を想定して、外科病棟のスタッフ全員に除細動などの訓練,BLS研修を行っておくことも重要です。
 (筑波大学附属病院 救急・集中治療部 河野   了)

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